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僕が目を覚まして隣を見た時、美貴はすでにに倒していたシートを元に戻して、何かを考えているかのように窓の外をじっと眺めていた。
しばらく、僕はそんな彼女の横顔を見つめていた。
でも、彼女は僕の視線に気付く様子もなければ、ピクリとも動くこともなかった。
何を考えているのかはわからなかったけど、彼女の意識は完全にその中にあった。
あっさりと声をかけづらくなった僕は、わざと「う~ん」と声を出して、寝起きのフリをし、両手を頭の上で組んで軽く伸びをした。
それに気付いた美貴は、意識を戻して僕に「おはよう」と言った。
僕はシートを元に戻して、首を何回もまわしながら「おはよう」と返した。
「よく眠ってたね……疲れてたんでしょ?ごめんね、せっかくの連休なのに……」
『ううん、そんなことないよ、大丈夫』
「だって……」
『何?』
「寝言言ってたよ?」
『えっ!?』
驚いた僕はとっさに美貴の方を見た。
でも、一目見てすぐにわかった。
それが彼女の冗談であることが。
『嘘ならもっと上手につかなくちゃね』
僕が笑いながら言うと、彼女もいつものように、あははと声を出して笑った。
僕はいつの間にか、そんな彼女の笑顔に癒されるようになっていた。
「どうしてわかったの?」
『見たらわかるよ』
「え!?なんで!?」
『顔に書いてある』
彼女はルームミラーに自分の顔を映して、不思議そうな……納得のいかない様な表情を見せた。
「何も書いてないんですけど?」
『あはは、美貴さんは透明なんだよ』
僕はそう返した。

