彼女はしっかりと僕の手を握ってくれていた。

そこから彼女の全てが伝わってくるようだった。




――好きになれるかも知れない




そう思った僕は、彼女の手を強く握り返した。


その瞬間、ビクッとした彼女は歩くペースを元に戻した。


逆に少し力が抜けた彼女の手から、僕は自分の手をそっと離した。

彼女は少し身を遠ざけた。

僕が繋いでいた手を離した理由は自分にあると思ったのだろう。


気付いたら僕たちはもうかなり花火に近付いていた。

ドンッドンッと花火が上がる音の時間差が短くなり、その音はかなり大きく聞こえた。

悲しそうな目で、夜空いっぱいに広がる打ち上げ花火を見る彼女に、僕はそっと声をかけた。


『……我慢しないよ』


「え?」


『だから……僕は我慢しない』


「……どういうこと?」

彼女の悲しそうな目は少し見開かれ、夜空の花火を綺麗に映していた。


『今はよくわからないけど……でも、僕も美貴さんとだからここに来たんだ。それは同じだから』


彼女の目に映る花火が少し歪んで見えた。

それでもジッと花火を見つめながら、彼女は頬に力を入れギュッと奥歯を噛みしめながら何かを堪えているようだった。


『綺麗だね……』


彼女は「うん」と言う代わりに鼻をズズッと鳴らして頷いた。


『今はまだ手も繋げないけど……』


彼女は立ち止まり、もう一度鼻をズズッと鳴らした。


『また会ったりしてくれるかな……』


彼女は目を手の甲で何度も擦りながら、ほとんど声になっていないような声で「あはは」と泣き笑いを見せた。


それからしばらく僕たちはその場に立ち尽し、お互いに次の言葉を見つけられないまま微妙な距離を保っていた。

彼女の右手は、僕の左手のすぐ傍にあった。

わずか5センチくらいの間隔が遠く感じた。

それは僕と彼女の気持ちの距離に等しかった……。


やがて、花火はこの日一番の盛り上がりを見せた。

夜空いっぱいに広がる打ち上げ花火は、そんな二人を悲しくも祝福してくれているように見えた。