家の中からは何の反応もなかった。

少しして、玄関のガラスサッシ越しに人のシルエットが見えた。

家の中に居るその人物は、そこからこっちの様子を伺ってるようだった。

僕は声になっていないような声で彼女の名前を呼んだ。


『ち、千鶴?』


その声は少し震えていた。

だけど、僕の声はその人物に届いていたらしく、そのシルエットはゆっくりとこっちに近付いてきた。

僕はそのシルエットにもう一度声をかけた。


『千鶴?俺だよ……智』


すると、すぐに中から声が聞こえた。


「智くん?あなたが?……びっくり!!本当に来た!!」


その声は女の子の声だったけど、明らかに千鶴の声とは違っていた。

そして、ガチャという鍵を開ける音がして、その声の女の子は玄関から姿を見せて言った。


「本当に来ると思わなかった~!!ごめんね、千鶴って子じゃなくて!!」


確かに彼女の言うとおり、その子は千鶴じゃなかった。

おそらく歳は同じくらいだったが、千鶴よりも背が少し高くて、髪の毛は真っ黒で、化粧も濃かった。

服装も千鶴のようにスウェット上下じゃなくて、ジーンズに灰色のスウェットワンピ、その上から黒のカーディガンを羽織っていた。

僕の知らないその子は僕のことを見て、それから、ニコッと笑顔を見せた。