千鶴の寝息が耳元で聞こえた。

僕はそれを聞きながら、今まで彼女と過ごした日々を思い返していた。

そのことだけを考えると、二人は恋人と変わらない。

だけど、僕の「好き」は千鶴に届かない。と思っている。

ていうか、そう感じている。

理由はわからない。


彼氏がいるから?


そうじゃない。

そんなちっぽけな理由じゃない。


それをちっぽけだと思えるほど、千鶴と僕の思いはすれ違っているのではないのだろうか……。


千鶴はそれを知ってるから……涙を流したのだろうか……。




「……楽しかった」


寝息に混じった彼女の小さな声が聞こえて、夢に落ちかけた僕の意識は引き戻された。


『千鶴?』


彼女の寝顔にそっと声を掛けてみたけど、やっぱり変化はなかった。


夢でも見てるのかな?


「智……ありがとう」


急激に愛しさが込み上げてきて、胸が熱くなり、涙が滲んできた。


『俺の方こそ……ありがとう』


それ以上、千鶴の言葉はなかった。

僕は瞼を閉じて、涙を堪え、二人の掌が触れ合う部分に思いを集中させた。




”愛”がそうやって生まれるのかどうかはわからない。

だけど僕がこの時、心で感じていたものが”愛”だということを信じたかった。


二人の間に、確かに”愛”は生まれていたのだということを……。