僕は千鶴から離れ、だけど、繋いだ手は離さずに、そのまま彼女と寄り添うように仰向けになって目を閉じた。


「約束……全部果たしてくれてありがとう」


千鶴が囁くように言った。


『え?』


「水族館も、動物園も、遊園地も……今日は映画も観たし、今はホテルに居る……」


『全部じゃないよ。まだ海にも行ってないし……』


「うん……そうだね。でも、今行けるところには全部行ってくれた」


『今度は海だね。千鶴の地元の海ってすごく綺麗なんだろ?』


「うん……」


それ以上、千鶴の言葉は返ってこなかった。

少し不安になった僕は、違う言葉で逃げ道をつくった。


『……眠くなった?』


彼女の返事はなかった。

首を傾けて目を開き、千鶴の顔を見ると、彼女は瞼を閉じていた。

僕は部屋に流れる有線の音と明かりを小さくして、もう一度瞼を閉じた。