「海なんて久しぶり……」


夕陽が水面に反射して、世界はオレンジ色に染まっていた。

耳元を吹き抜ける潮風の音と、展望台に打ち寄せる波の音が騒がしく聞こえた。

そして、透明な彼女のその横顔は、他の色に混ざることなく、素直にオレンジ色に染まっているように見えた。


「海好きなの?」


『うん』


「この場所も?」


『ここはあんまり……かな?』


「じゃ、どうしてここに来たの?」


『埋め立て工事が始まる前、子供の頃この近くで住んでたんだ。まだ綺麗な砂浜があった頃のことだけど……』


「ふ~ん……」


『僕、一人っ子でさ。兄弟いないし、保育所とかにも行ってないから、子供の頃から友達の作り方とか知らなくてさ……いつもこの海で遊んでて……』


「なんか……寂しいね」


『う~ん……でも、そうでもないよ?物心ついた頃からずっと一人だと、それが当たり前だし、それしか知らないから寂しいとかは思ったことないんだ』


「そんなものなんだ」


『うん、そんなもの』


彼女は僕の方を見て「それで?」という表情を見せた。

僕は続きを話した。