家を出る時、玄関で靴を履きながら、隣で靴を履いている千鶴に僕は言った。
『大丈夫?』
「昨日のこと?」
『うん。もし、昨日みたいにまた誰かついてきたら、思いっきり走って駅の方に行くんだよ?』
「駅?」
『そう。家がバレたらまずいじゃん。駅前に交番があったからそこに駆け込むんだ』
「う、うん……」
千鶴は不安そうに小さく頷いて視線を落とした。
『俺は7時くらいには帰ってくるから』
千鶴は何も言わず、俯いたまま僕の服の裾を引っ張った。
僕はその手の上に自分の手を重ねて、ギュッと力を込めた。
「俺が千鶴を守るから」
僕の言葉に出来ない思いは、この手を通じて彼女に届いていたのだろうか。

