「じゃ、これで決まりね?」
『え?で、でも……』
僕が躊躇っていると、千鶴は表情を変えて言った。
「また今日みたいなことあったら怖いし……ずっとここに居て?」
『え?そんな……ずっとって?』
千鶴のその言葉は、飛び跳ねてしまうくらい嬉しかった。
だけど、僕は素直に喜べなかった。
それはやっぱり、さっきの「言わないで」という千鶴の言葉の意味を、僕が勝手に想像し、僕の心を支配していたからだった。
そんな僕が俯いたままでいると、彼女はそれを察してすぐに言葉を続けた。
「あ、ご、ごめん。そんなこと言われても困るよね?ごめん……」
僕は、そんな千鶴と目を合わせた。
千鶴が「言わないで」と言ったのには理由がある。と僕は思う。
だったら、そんな千鶴に僕は何が出来る?
千鶴の……友達として。
『いいよ。千鶴がいいなら……ずっとここに居る』
「智……ごめんね」
『何が?あ、これってもしかして……同棲?同居?』
心の中は複雑だったが、僕は笑ってみせた。
だけど、千鶴は視線を泳がせて、落ち着かない様子だった。
少しして、彼女は自分の中で覚悟を決めたように、真っ直ぐに僕を見ながら口を開いた。
「わ、私ね……じつは……」
千鶴が言いかけた言葉を僕はすぐに遮った。
『言わなくていいよ』
「でも……」
『言わなくていい。……いいんだ』
千鶴が何を言おうとしていたのかはわからない。
想像もしない。
だけど、僕はそれを聞いてはいけない様な気がした。
いずれは、知ってしまう事であっても、その真実を今知ることだけが幸せとは限らない。
知らないで過ごす方が、幸せなこともあるのだ。
例えばこの時の、僕と千鶴のように……。

