『そ、そうだ。今日は俺が晩ごはん作ったよ』
僕は彼女から離れて、またシンクの前に立った。
「そ、そうなんだ?カレー?」
『うん。だって俺、料理なんて出来ないし……カレー作るので精一杯だよ』
僕がそう言って笑うと、彼女も笑った。
「でもいい匂いする~♪」
『だろ?食べる?』
「うん!!食べる!!」
それから僕たちはテーブルに向い合ってカレーを食べた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていって、夜の10時を過ぎた頃、僕は立ち上がって言った。
『じゃ、そろそろ帰るね』
すると、千鶴は不思議そうな顔で僕を見上げながら言った。
「え?帰るの?」
『うん。だって……明日は仕事だし、電車の時間もあるし』
千鶴は、僕のリュックに気付いていたらしく、それを指差して言った。
「でも……じゃあ、あの着替えとかは?何?」
『え?』
そう。
僕は今晩も泊まるつもりで、ちゃっかり着替えから洗面用具まで、家から持ってきていた。
だけど、それをあらためて指摘されると、なんだか急に恥ずかしくなった。
いや。
確かに泊まるつもりだったんだけれど、さっきの出来事があって、僕の考えが変わったのだ。

