「裏の細い道に入って走ってきたから、家まではわかってないと思うんだけど……」
『どんな奴だった!?』
「わかんない……薄暗くなってたし……」
僕は立ち上がり、千鶴に「大丈夫だから」と言って、玄関から外を見渡した。
そこから人影は見当たらなかった。
僕はすぐに玄関を閉めて、鍵を掛けた。
座り込んだまま、不安そうな表情で僕を見上げる彼女に、僕はそっと手を差し出した。
『大丈夫だから』
千鶴は僕の掌に、掌を重ねて立ち上がった。
「ありがとう……」
彼女は俯いたまま言った。
『ううん』
「智が居てくれて……よかった」

