『眠い?』


「かも……瞼が重い~」


『じゃ……おやすみ』


少し遅れて、千鶴の寝言みたいな声が聞こえた。


「うん。おやすみ」


僕は彼女の方に首を傾げた。

僕は、ずっと天井を見ながら話していたので気付かなかったが、千鶴は僕の方に顔を向けて話していたらしい。

彼女は小さな寝息をたてて眠っていた。

じっとその寝顔見ていると、僕は彼女に触れたくなった。

僕は体勢を変えずに、腕を千鶴の方に伸ばした。

腕は部屋の仕切りをまたいだけれど、僕の手は彼女の布団にも届かなかった。

だけど、僕は体を動かすことはしなかった。

これが、僕と千鶴の距離なんだ。と思った。

唐突に溢れてきた涙が目の縁を伝い、枕代わりにしていたクッションを濡らした。

僕はそっと目を閉じた。

そのまま目を開けることはしなかった。

やがて、僕はゆっくりと夢の中に落ちていった。