『寮って?』


「寮っていっても古い平屋の一軒家なんだけど……そこに本当は二人で住むんだけど他に寮生がいないから今は一人暮らしなの」


『そうなんだ……学校かなんか行ってるの?』


「うん……」


『何の?』


僕がそう訊くと彼女の声は急に小さくなった。


「……看護学校」


『看護学校!?』


「うん……」


『そうなんだ……すごいじゃん!!』


僕は彼女が言っていた夢の話を思い出して余計に嬉しくなった。

千鶴は夢に向かってがんばっているのだ。


「それで智にお願いがあって……」


『俺に?』


「うん、私こっちに知り合いとかいないから……」


『うん』


「智、前に言ってくれてたよね……私は智の友……達」


『うん、千鶴は俺の友達だよ』


本当は友達なんかじゃなかった。

千鶴は僕の片思いの相手……。

でもそんなことよりも、この時の僕は千鶴から連絡があったことだけで大声を出してしまいそうなくらい嬉しかった。

それに彼女が「千鶴は俺の友達」と言った僕の言葉を覚えてくれていたことも嬉しかった。

でもそれよりももっと……もっと一番嬉しかったのが、僕のことを頼りにポケベルを鳴らしてくれたことだった。


僕の喜びは最高点に達していた。

だから、僕は普通なら些細なことかも知れないが、肝心なことに気付いていなかった。

それは、千鶴が誰に僕のポケベルの番号を聞いたのか?ということだった。