『美貴さん、俺のことなんか……』


僕はこの先の言葉を言ってあげられなかった。

「もう会うのはやめよう」そう言うべきだった。

でも、言えなかった。

僕は強くて優しい彼女に寄りかかっていた。

もう二度と会うことのない人を、ほんの僅かな希望を持って心の片隅で待ち続けている僕の……

寂しさを埋めてくれる彼女に……。


「そんな顔しないで……」


振り返った彼女と目が合った。

その縁はピンク色に染まり、堪え切れなかった涙がうっすらと滲んでいた。

それでも彼女は必死で笑顔を作ろうとしていた。

その一瞬とは言えない間に、僕の中の美貴に対する何かが変わっていくような気がした。


「智……ごめんね」


彼女はその言葉で、いつも僕の辛さを背負ってくれる。

彼女自身の方がよっぽど辛いはずなのに……。

そんな彼女がいたから、僕は今まで本当の悲しみを悲しみと知らずに過ごせた。

僕の傍にはいつも美貴がいてくれた。


『美貴さん……ごめん』


美貴は表情を変えなかった。

それでも彼女は僕の為に、自分の感情をグッと堪えて笑顔を見せてゆっくりと頷いた。

それが精一杯だったのだろう。

不意に胸の中から……と、いうよりもそれはもっと深い奥の方から……彼女に対する何かが込み上げてきた。

そして、その思いが涙という形で滲み出てきた。


『美貴さん……』


僕の涙を見て彼女は強く瞼を閉じた。

それでも溢れ出る涙は、彼女の頬をゆっくりと伝っていった。


『美貴さん、ありがとう……』


彼女はゆっくりと瞼を開き、同じ速さでもう一度閉じた。

そして頷いた。

手の甲を強く目に押しつけながら……何度も鼻をズズッとすすった。

それから彼女は、何度も何度も頷いた。