「それでもよかったの……」


続けて彼女はそう言った。


「でね、いろいろ考えたんだけど……私が出した答えは簡単だった。私が……私自身がもっと素敵な人になって、智に振り向いてもらえるような人になればいいんだって、そう思ったの」


『美貴さん……』


「まだ途中だけど……ちゃんと言ってないから」


そう言ってから彼女は表情を変え、率直な眼差しで僕の方を見た。


「私は……智のことが好き。だから……でも駄目なのはわかってるの。ただ……少しでも智の支えになりたい。辛い時とか……寂しくなった時にそばにいてあげたいの……」


言葉は出なかった。

その代わりに滲み出てきた涙が、自分の感情の高ぶりを気付かせてくれた。

これほどまでの決意をしていた彼女に、何もしてあげられない自分が情けなくて憎かった。

彼女はその視線を水平線のそのまだ先の方に移した。

その瞳は一番初めにここに来た時に、彼女が見せたものと同じだった。

つまり彼女は、あの日からすでにもう今と同じ気持ちでいたのだ。

それは涙を必死で堪えているようにも見えた。

彼女のその素直な気持ちは行き場を無くし、どこか遠くに走り去っていきたかっただろう。

僕の言葉で、それを引き留めるのは簡単なことだけど、その気持ちを受け止めることは出来ない。

その繰り返しの中で彷徨っていた彼女の気持ちが、どうしようもなく行き着いた場所がここだったのだから……。

彼女のその気持ちは痛いほどよくわかった。

思えば、状況は違っても、それは僕の千鶴に対する気持ちと同じなのだ。


僕が言葉を濁していると、彼女はゆっくりと俯いた。

何度も忙しなく瞬きを繰り返しながらそっと呟いたように言う。


「私に出来ることは……それくらいしかないから……」