彼女の気持ちを動かしているものは何なのだろうか。
彼女の言う"素敵な人"とは、つまりは僕のことなのだろうか?
それとも僕の知らない誰かなのだろうか。
彼女の周りに、彼女が"素敵"だと思う人がいるのだろうか。
それは彼女自身の恋愛という時間の中ではなくて、彼女の言うように"一般論"として……。
「ねえ……恋って人を変えるよね」
『どういうこと?』
「今までは自分を見つめ直したことはなかったし、このままで十分だと思ってたんだもん」
彼女は顔を上げてチラッと僕の方を見てから続けた。
「私のことを好きになってくれる運命の誰かと出会って、その人と幸せな結婚することが夢だったの……」
『うん、それでいいんじゃないかな』
「そうじゃないの、それって自分中心な考え方でしょ?」
『そうかな?』
「そうよ、恋をすると変わるの。智だって……」
『俺も?』
「うん、みんなそうなの」
少し考えて彼女の言ってる意味がわかった。
だから美貴は「素敵な人になりたい」と言ったのだ。
『なんか……わかる気がする』
「でしょ?私もそうなの」
『いつ気付いたの?』
「さあ?智は?」
『さあ……』
僕の頭の中には千鶴の笑顔が浮かんだ。
それから喫茶店で働く姿、初めて彼女を見た時の姿、歩く後姿、港の夜景を見つめる瞳、彼女の夢の話、彼女の手の温もり、感触……。
僕がそのことに気付いたのはいつからだったんだろう……。

