朝陽が完全に昇った頃、僕たちはボーリング場に着いた。

誰に見られるかわからないので、僕は車をボーリング場の裏手の路地に停めた。

そこには居酒屋やうどん屋といった飲食店が何軒か並んでいたが、朝のこの時間帯は静かで人が通ることはほとんどなかった。


「誰かに見られないかな……」


彼女は少し不安そうに辺りをキョロキョロしてから、シートに浅く座り直し、身を隠すような体勢に変えた。


『大丈夫、朝からこの道を使う人は居ないよ。駅からも遠回りになるし』


「ならいいけど……見られたら困るでしょ?」


彼女が心配していたのは自分のことではなくて、僕のことのようだった。

たしかに貴久に知られたら話がややこしくなる……でも、僕自身は別に困ることではないはずだった。


「美貴って……いい子でしょ?」


次に千鶴の口から出た言葉はそんな言葉だった。

彼女の口から美貴の名前を聞くと、何故か構えてしまう。

僕の心臓の音が高鳴る……。

千鶴はどこまで知っているのだろう…。


『う、うん』


「じつはね、私があそこでバイトするのを誘ってくれたのは美貴なんだ」


『え?』


「入口にアルバイト募集の紙が貼ってあって、どうしようか悩んでた時に美貴が声を掛けてくれてさ」


『そうなんだ』


「うん、入ってからも丁寧にちゃんと教えてくれたし……いつも明るくって、私が彼のことで悩んでる時もいろいろ相談にも乗ってくれるし」


美貴らしいと思った。

彼女はいつだって自分よりも一緒に居る誰かに気遣っているのだ。


「美貴がいないと駄目だったな……」


『うん……』


「智は?」


『俺もそう思うよ』


「だから……」


続きを言いかけて彼女は鞄を膝の上に置いた。