8月が終わってしまった。

 最初にこの店のドアを開けた時から、市川さんは言っていたのだ。9月半ばまででいい?って。

 その9月半ばがいつまでなのか、具体的なことを聞かなきゃならない。

 折角この店にも慣れたけど。市川さんとちょっとは分かり合えたかもって思ってるけど。

 でも、9月になってしまった。

 だから、聞かなきゃ。

「市川さん」

 私はその日、朝、いつものように起きてから階段をおりて、おはようございますの挨拶の後に言った。

「9月になっちゃいました。私は、いつまでいれますか?」

 って。

 市川さんはいつものように白いTシャツにブルージーンズの姿で、沸いたばかりのお湯がたっぷり入ったヤカンを持ったままで振り返った。

「・・・そうだね、それ、話さなきゃって思ってたんだ」

 ニッコリと笑う。いつもの笑顔で、私はそれを見ることで安心する。今日も朝日が差し込む店のカウンターの中で、市川さんは優しい笑顔で私を見ていた。

「メグちゃん、ここを出たらどうするか考えてる?」

 やかんを下ろしてから、市川さんが聞く。

 私は力なく首を振った。

 ここではお給料を貰っていない。滞在費を払っていないから、給料も貰ってないのだ。つまり、実家に戻った時の私は、夏前にここへ来る前とほぼ同じ状態ってわけ。職なし、金なし、彼氏もなし。

 気持ち的にはえらく成長したなって思っているけれど、他の人から見たら私の立ち位置は変っていないのだった。