「ほら、よく言うだろ?今まで歩いてきた軌跡、とかそういうの。オレああいうのが好きじゃないんだよなー。軌跡とか足跡とか自分のやってきたことを素晴らしいって褒め称えるのって、過去ばっか振り返ってる気がしてさ」

「じゃあ・・・前だけむいてろってこと?」

「ちげーよ、そうじゃなくて。うーん・・・だから、大事なのは足そのものだろってことだよ」

「足」

「足。だって歩いてきたのも今歩いてるのも、これから歩いていくのだってその足だろ。メグのサイズ何センチ?」

「私は24」

「へえ、もっと大きいかと思ってた。オレは28センチ。だけど右足は28.5だな。大事なのはこれだよ。この足で死ぬまで歩くわけで」

「うん」

「だから悔しかったり辛かったらその時泣けばいいんだよ。で、忘れる。覚えてても仕方ないって思わないと、いつもでも引き摺るだろう。そんなことばっかだったら、漁に出てもすぐ死ぬしな」

「え、そうなの?」

「そりゃそうだろ。昨日のこと考えてぼーっとしてたら海に落ちる。揺れるしな。目の前に集中しないと」

「目の前に集中する・・・のに、シュガーは彼女を作らないの?」

「だから、でしょ。今、この時間を一緒にいる女の子を大切にしたいんだよ」

「なんじゃそりゃ」

「メグにはわからないだろーよ。お前は過去が大好きみたいだし」

「過去は・・・大好きじゃない。だから、もう忘れる」

 ずぶ濡れになっていた体が乾いていた。

 だけど私は何度かくしゃみをして、シュガーが風邪ひいたかもよ~って他人事モード丸出しで言う。

 目がまだ痛かった。

 でも、心は何だか、楽しんでるようだった。