「はーい、ライターです」

 市川さんが腕を伸ばして受話器を取り、肩で押さえる。その格好でしばらく向こうの話を聞いていたけれど、私と目を合わせてにやりと笑った。

「はい、ちょっと待って」

 そう言って私へと受話器を向ける。

「え?私ですか?」

 まさか。一体どこの誰が私に電話を!?仰天して、受話器を受け取るのが遅れてしまった。市川さんがほらほらとせかすので、慌てて受け取る。

 だって家族や友達は用があるなら携帯にかけてくるし。まあここは圏外になることも多いので、というかほぼ圏外なので、ほとんど携帯電話の役割は果たしてもらってはいないのだけれども。

 急いで受話器を耳にあてて、恐る恐る声を出した。

「代わりました。えーっと・・・?」

『メグ!よう、あんた今日の夕方暇かー?』

 途端に受話器から聞こえてきた大音声に、一瞬耳が痛かった。

 ・・・は?誰だよお前。心の中でそう思って、ハッとした。この偉そうな感じは!!

「・・・どちら様ですか?」

 判ってたけど言ってやった。まさか、店に電話をかけてくるとは。

『オレだよー!って、何か切られそうな雰囲気だな。切るなよ、待てよ~!シュガーだよ、仕事から帰ってきて、暇なんだよオレ』

「・・・・・」

『おーい、メグだろ?聞いてる?』

「聞きたくないです。あなたは暇でも私はそうじゃないので」

 市川さんが、お皿を拭きながらぷっと吹き出した。私はそれを横目で睨みながら口を尖らせる。