私は両腕をカウンターにひっつけてそこに頬をのせた状態で、目の玉だけを動かして雇い主を見る。市川さんも半身をこちらへ向けて私を見ていた。だから、微かに頷いた。

 市川さんは肘をついて片手で顔を支え、私をじーっと見ている。

 言ってみなってことなのだろうか。二人の間に広がるしばしの無言。それは居心地の悪いものではなかったけれど、折角だから話すことにした。

「・・・会ったんです。シュガー男に。ビーチで。また堤防に座ってて夕日を見ていたらあの人が後ろからやってきて」

「また海へ落とされたとか?」

 きゅっと口角を上げながら市川さんが聞いた。シュガーにふいをつかれて海へ落とされたことは、勿論報告してあった。彼はその話を聞いた時には不機嫌に顔を顰めて腕を組み、シュガーに対してムカついていたようだったけれど、今は面白いことだと思っているらしい。

「落とされてません。気をつけましたから。普通に話をしただけです。あの人のあだ名の由来とか、そんなのを」

「ふーん。ほな何で凹んでんの?」

 ひゅっと関西弁が出た。

 いつものことだけれど、普段綺麗な標準語を話している市川さんがいきなり関西弁を使うと驚いてしまう。

 ええと・・・と言葉を選びながら、私は寝そべっていたカウンターから身を起こした。

「シュガーと話していると何だか居ても立ってもいられないような気分になるんです。わかります?あっちが凄く自由で、気軽に思えて、自分は何してるんだろうとか考える・・・というか。ざわざわします」