闇にすっぽりと包まれた市川さんのお店で、私は市川さんとのんびり寛いでいた。

 市川さんは、休日はお風呂に入るのも早くて既に茹った状態になっていて、甚平をサラリと羽織ってビールを飲んでいる。まだ濡れた後髪が首筋に張り付き、黒くて緩くカールしている前髪が額に落ちていた。ほんのりと赤くなった頬にぼけっとした放心顔。瞳にはいつもの穏やかな光は見えなくても、代わりに少年には出せない哀愁のような雰囲気が見え隠れする。こういう時の市川さんは、普段は隠している年齢相応の色気をリミッターゼロで放出していて、たまに私は目のやり場に困ることになる。

 おおー!大人の男性がこんなところに落ちてる!って。

 しかも色気むんむんで!

 それも多分無自覚で!

 うわあ~、どうしましょ~。

 で、ちょっと残念に思うの。この人、男が好きなんだったよなあ~って思い出して。あたしじゃ相手にならないんだよね、とか思ってしまって。

 私はシュガーから受けた「天真爛漫な当たり前」攻撃がまだ効いていて、いつもよりもテンションが低かった。そんなわけで、ぼーっとどこかを見詰めている放心状態の市川さんとグダグダと沈みつつある私の二人で、静かな夜を過ごしていた。のんびりと。大いに自分達の世界へ埋没して。

 時計がカチコチとなる。いつもは気がつかないその音ですら、大きく聞こえるくらいに静かだった。

 ビールを瓶ごと飲んでいた市川さんが、音を立ててそれをカウンターにおいてから、ぼそっと声を出した。

「・・・メグちゃん、今、何か凹んでんの?」