心がざわざわしていた。

 声を出そうとすれば何か変なことを言ってしまいそうだった。

 だから後ろから、あんたほんと愛想ねーなあ!ってシュガーが叫んでいたのにも反応しなかった。

 潮風でベトベトになった体を使って自転車を漕ぐ。

 山には既に紺色の波が下りてきつつあって、虫の声や風の音を聞きながら、私はその更に奥を目指して懸命に漕いでいく。シュガーが言う通り、山の闇は、いつでもべったりと重く暗い。

 あと一つカーブを曲がったら、そこには市川さんのお店の明りが見えるはず。

 砂利の上にポンと立った市川さん手作りの外灯も。



 そこまで戻ったら、やっと普通に呼吸が出来る気がした。