彼の友達や女の子たちは、シュガーの言葉の威力を知っているようだった。仕方ないなあって顔をしたあとに、嬉しそうに笑うからだ。私はそれを何度も店で見た。

 ふうん、て思った。

 大丈夫ってあんな風に言い切れるのは凄い才能なのかも、って。

 そしてある日の帰り際に、いきなり私を振り返ってシュガーが言ったのだ。

「メグ、夕方に浜辺に来てみたら?」

「―――――はーい?」

 私はお盆を抱えたままで呆気に取られた。

「ここみたいな暗闇でなくて、海に沈む夕日ってヤツを見てみたら?山にこもってばかりいねーで、海辺の田舎の他の表情も見てみろよ」

 そう言ったのだ。

「うーん・・・若干面倒くさいんだけど」

 私がそう言うと、すぐにブーイングの嵐が来た。

「誘われたら爽やかに、おう!って言えよ~、どうしてメグはそんななんだ!」

「放っといてよ」

「いいから来いよ!すんげー綺麗なんだぞ、海は偉大なんだぞー!」

 その会話を聞いていた市川さんは別に止めなかった。一応こっちを見てはいたけれどその瞳は静かな色で、止めときな、て声はなかった。だから私はちょっと考えて、頷いた。そして次の休日に、この、海水浴の時期が過ぎて閑散とした浜辺の夕方を過ごしに訪れたのだ。

 波の音でコンクリートを歩く足音は消えてしまう。

 それに、吹かれっ放しの潮風で髪はダメになる。だけど別にこの後にデートがあったり洒落たレストランに行く予定があるわけでもない。だから堤防の端まで行ったときには、長い間座っていた。