お盆は家に帰らなかった。

 市川さんは、どうする?と聞いて、悩みもせずに帰りませんと即答した私をしばらく見ていた。

 だけど頷くと、二度と話題にしなかった。だから私はずっとこの店にいたのだ。結局、夏の間は一度もこの店と海辺の小さな集落から離れなかったことになる。

 お店「ライター」と、たまにくるこの浜辺くらい。その往復の途中で通る小さな町だけ。

 休日には何度か来たこのビーチも、お盆を過ぎると海水浴客はいなくなってしまう。

 まだまだ熱い太陽が砂を焼くのは変わらないのに、チラホラといた家族連れの姿もなくなり歓声は消えてしまって、浜辺はそこだけ別世界のように存在していた。

 ちらちらと揺れる白い光で満ち溢れた、ガランとした空間だ。

 自転車で頑張って50分、大量の汗をかきながらそこへと辿り着いて、私も海には入らずに防波堤に座ってお茶を飲む。くらげに刺されるのは嫌だし、波打ち際で砂遊びをする気もない。大体最初の頃、まだ夏が始まったばかりの市川さんの店にお世話になりだした頃は、私はもっともっと全身で疲れていたので、そんなことは考え付きもしなかったのだ。海へ行って波と戯れよう、などとは。

 シュガーがバイトをしていたらしい小さな海の家も、お盆が終わると営業をやめていた。板を打ち付けただけのその小さな建物の前を通り過ぎて、私は防波堤へと歩く。

 一度店に来てから、シュガーは友達をとっかえひっかえして連れてくるようになった。わざわざ車で20分もかかる峠の喫茶店まで!市川さんはちょっと呆れているようだったけれど、それでもお客さんが増えてくれたことには変わりがない。それも、一番近い街からの人たちだということもあって、いつでも機嫌よく接客をしていた。