ライダー達が来店した時の、あの一瞬の変な雰囲気。それは、だからだったのだ。

 市川さんが好きな人がお客さんで来た。それも懐かしい人らしい。市川さんの微妙な笑顔を思い出す。私はそっとガラス戸を振り返って、中を覗き込んだ。

 他のライダー達と離れて座り、市川さんとその男の人は話しこんでいる。ここから見る限り市川さんは穏やかな表情だったし、相手の人もよく笑っているようだった。

 安心して、ほう、とため息を零す。

 市川さんは、あの男の人のことを私に話してくれるかな。

 ちょっと考えたけれど、自分で頭を振った。

 風が髪を揺らして通り過ぎて行く。私は階段下に立てかけてある箒を手に取って店の入口から土を払い落とすと、カウンター席を片付けに店へと戻った。