日に焼けた海辺の彼は、にこにこと笑ったままで頷いた。

「勿論違うよ、仲間にはそう呼ばれてるってだけ。だから前は、君が俺を探してるのかと思ったんだ。知らない子だけど、何だ?俺に用?って。で、そっちの名前は?」

「・・・教えません。それより彼女、いいんですか?私は消えますから、どうぞお二人でゆっくりしてください」

 そう言うと、彼はしゅっと目を細めた。

「ああ、さっきの見たんだ?でもいいんだ、あの子は別に彼女じゃないし」

 は?

 私は正直に嫌そうな顔をしたらしい。彼が、前でけらけらと笑う。

「彼女以外にキスしちゃダメなんてこと、ないだろ。いいんだよ、どっちも気持ちよければそれで」

「・・・私にはわかりませんが、まあ、関係ないですし」

 心の中では、何だこの男、と思っていた。チャラチャラしてる、って。少なくとも、心の中にそんな意見を持っていてもストレートにそれを言葉にする男はいなかったのだ、今までは、私の周りで。去って行った彼も上品な人だった。

 眉間に皺をよせて後ろをむき、歩き出した私に彼は言った。

「なあ!」

 その声は何かの意思をもって、私の鼓膜を揺らす。見えない手でがっちりと腕を掴まれたような感覚だった。

 無視すればよかったのに。

 なのに振り向いてしまったのだ。

 あの男の方を。


 前の席で、市川さんがくしゃみをした。その音にはっとして、私は目を瞬く。

「・・・ってことは、もしかして?」

 市川さんが椅子に寄りかかりながら夜空を見上げて、声を出した。