「ほら、前来たときさ、泳がないでずっと浮き輪で浮かんでただろ。あれじゃあヤバイだろうな、って思ってたんだ。一瞬浮き輪の上で死んでるのかと思ったくらい、動かなかっただろ」

「・・・そうですか」

「今日は泳ぐんだな。泳げないのかと思ってた」

「泳げますよ」

「教えてやろうかと思ってたのに」

「結構です」

 浮き輪売り場を通り過ぎる。そこで当然お別れかと思っていたのに、男はまだ足音をたてて私についてくるようだった。

 不審に思ってちらっと横目で見ると、ばっちり目が合ってしまう。

「・・・あの、何ですか?」

 ついに私は立ち止まって男を見上げた。若干恐怖を感じだしていたのだ。後ろからついてくる地元の男の人、周囲は閑散としていて助けを求めても応じてくれそうにはないって考えて。

 で、ビックリした。近づいた男の身長が思っていたより高かったからだ。・・・おおっと、この人、高かったんだなあ!って。前に見た時にはしゃがみ込んでいたから、もっと背が低いような気がしていた。

「あのさ」

「はい?」

 男がにっこりと笑った。

「俺はシュガー。そう呼ばれてる。んで、あんたの名前は?」

 は?

 私は驚いて、瞬きを繰り返した。

 シュガー?

「名前教えてよ、砂糖の人」

 彼がまた、大きく笑った。