ふーん、と乾いた心で思った。あまり興味がなかったとも言える。

 実際、私はどうなってもいいって思っていた頃だったのだ。

 世間に拒否されて暗くなっていた時期だったので、その市川さんて男の人とどうなってもそれはそれでいいかも、なんてふざけたことも考えていたりした。襲われるのはちょっと怖いけど、まあそれも仕方ないのかな、て。それに私を必要と思ってくれるならもう何でもいいや、体くらいあげるよ、そんな風に。いくら男の人が恋愛対象だと言っても、体が男なら女体に興味をもつかも、とか。

 だけど、到着した日に呼び鈴に応えてドアを開けた大きな男の人は、とても澄んだ目をして私を見たのだ。そして優しい笑顔を見せた。

 その時に、恥かしく思った。

 市川さん、邪まな私ですみません、って。

 市川さんはぼけっと突っ立つ私を店に招き入れてくれて、温かくて美味しい紅茶を出してくれて、私の名前を確かめ、市川ですと自己紹介をした。ちょっとぶっきらぼうだったけど、それも今なら照れてたのだな、と判る。彼はおばあちゃんの話を面白おかしくしてくれて、初日で緊張している私を慰めてくれもした。

 この澄んだ目のように心も澄んだ人なのだろう、滞在2日目にして私はそう思い、疑っていた自分を大いに恥じたのだ。

 というわけで、実にプラトニックな、年の離れた兄弟か従兄弟のような関係で、私は市川さんのお世話になっている。初めは市川さんも何と言うか、居心地が悪そうにしていたけれど、年の若い同居人がいるということにすぐに慣れてくれた。俺だってルームシェアはしたことがあるしって笑いながら。

 滞在先が温かい場所で、その日から、私は笑顔が戻りつつある。


 さすがだ、おばあちゃん。