帰宅した私に、両親は思いのほか優しかった。

 ずっと連絡をしなかった娘を案じて、連絡先を教えろと祖母に詰め寄ったりしていたらしい。祖母はあの子がその気になればあっちから連絡をしてくるだろうから、待つべきだ、と両親の要望を突っぱねたと聞いた。

 あの子をもっと信じなさいって叱られちゃったわ、そう言って母親は苦笑していた。

 私は電話をかけて、おばあちゃんにお礼を言う。

「とてもいいところだったよ、おばあちゃん」

 両親に対応してくれたことのお礼を述べたあとそう言うと、電話の向こう側でおばあちゃんはコロコロと笑った。

『そうだろうね、市川君が作った店ならそうだろうと思うよ』

 電話の向こう側では騒がしい声が聞こえている。祖父をなくしても下宿をやめなかったおばあちゃんは、いつでもドアを開けっぱなしにしていて住んでいる学生さん達の声や足音を部屋にいれているのを知っていた。

 常に4人の学生が住み、寂しさはないらしい。

『市川君は元気にしていた?あの子はここを出た後別のところで暮らして、京都を出ると挨拶に来たときにはやつれていたんだよ。何か辛いことがあったようだから』

 最後に見た顔は泣き顔のような微笑だった、とおばあちゃんが言ったので、私はああと納得する。きっと彼女がなくなったりした後だったのだろう。

 元気だったよ、と伝える。いつでも穏やかでのほほんと暮らしていたよ、って。友達もたくさん店に来てくれてたよ、って。それを聞いておばあちゃんは安心したようだった。