英語の担当教諭は今年の秋に千晶と同じく入ってきた、
青木先生だ。
清楚で、おしとやかで、美人で、
長い艶やかな黒髪がとても似合う。
授業もすごくわかりやすい。
……………
……………だが。
稲葉や、柚木、田代たちからの評判はすこぶる悪い。
青木は、困っていたり、悲しんでいる生徒に親身になって助けを出す。
だから、柚木も夕士もとても親切にしてもらった。
なにせどちらも両親がいないからだ。
青木からしてみれば、
「稲葉くんも柚木さんも、ご両親がいらっしゃなくて、一人暮らし・・・・・
…大変な事ばかりだろうから、教師である私が力にならなくっちゃ!」
と言う感じなんだろう。
だがしかし。
べつに稲葉も柚木も、そこまで悲しんでいないわけで。
確かに辛いこともあったが、別に今はそこまで落ち込んでもいない。
両親との別れから随分たって、現実と向き合い、大人になったからだ。
それでも青木はまるで、
可哀想な子を見るように接してくる。
‘一人暮らしで傷ついている可哀想な子’
として、
二人に接している。
だから、当てはまらない二人には、いらっとくるわけで。
もちろん、当てはまる生徒もいる。
「今日は、聖書の朗読をします。
私の好きな部分の朗読よ。
意味はわからなくていいの。
英語を聞くことが大切なのよ。」
静かで透き通るような声で、
青木が朗読を始めた。
べつに嫌いなわけではないが…やはり面倒な性格だ。
千晶なんて、
「煙草は体にも毒ですし、生徒にも悪影響ですわ。
お辞めになった方がよろしいですわよ。」
と、言われたのに対して
「大きなお世話です。」
なんて返してくれたのだから
その場にいた柚木も夕士も吹き出すのをこらえるのに必死だった。