走って 家まで
玄関
居間
――… いない
「彗?」
どこかから、お母さんの声
裏から回って
トタン 雨避けの下
ダンボール、いくつも積まれてる
小さな駐車場を歩いて
久しぶりに近づいた、裏の工房
入口には 看板
サッシが開いていて、熱い
中にはいくつも
ガラスをとかす、炉があって
それがいつも この場所に
真夏の空気を作ってる
「… お父しゃん」
いつもは、社員さんとかいるんだけど
今日は 二人とも、いなくって
お父さん
ビー玉とか、トンボ玉
出荷するガラス細工を検品しながら
ひとり 背中向けて しゃがんでるだけ
「お父しゃ…」
「――― 入るな」
足 一歩
踏み入れたとたんに怒られた…
そして、また 無言…


