走るだけ走って
知らないうちに
近所のトンネルの入り口付近まで来ていた私。
どうして
どうして
こんな所に来てしまったんだろう。
もとはと言えば
私が考えた作り話なんだから。
そうだよ作り話なんだから。
何も怖い事なんてないんだからね。
肩で息をしながら
そう思い直す。
ただの幻。
寝ぼけているだけ
きっとまだ夢の中
目を覚ませば
扇風機の風に揺られて
居間の真ん中で寝ているんだきっと。
深呼吸しよう。
乱れている呼吸を整え
身体中が鼓動ともいえるような、心臓を落ち着かせようとしていたら
後ろから
強い力で左肩をつかまれた。
「右側はつかめないの。右手がないから」
息がかかるくらいの距離でささやかれ
次の瞬間に左の肩が冷たくなる。
ほんの一瞬の事だった。
「あなたは左にしたよ」
そう言いながら
女は遠くに何かを放り投げた。
頭の中がぼーっとしていて
それが自分の左腕と気が付くのには
少し
時間が必要だった。



