通り過ぎる店内の中、丁度お手洗いの近くの個室に通り掛かった時だった。
不意に扉が開いている部屋に目を向けると誰かが、壁に寄り掛かっていた。
(酔っ払い?………大丈夫かしら?ぐったりしてるけど…。)
「あの………、大丈夫ですか?」
「……………。」
(何とか言いなさいよ……人が話し掛けてるのに。)
「あの!誰か迎えに来るんですか?!」
大きい声で少し強めに聞いて、俯いている人の肩を掴んだ時だった。
「……うぅん。」
小さく声をあげて、顔を上げたのは紛れもないその人だった。
ドクンッ!
思いがけない巡り合わせに一瞬、思考が止まる。
(何?どうして、ここで泉CEOが酔っ払って寝てるの?)
眠っている泉CEOを初めて見た。
「……目…瞑ると少し…幼く見えるんですね……。」
あの日以来ずっと呼んでみたかった名前を呼んでみる。
「…………千春さん…。」
ただ、眠って、聞いてもいない相手の名前を呼んだだけ…………涙が滲んできた。
「………ずっと、好き……でした………。」
そっと、ネクタイを緩めた胸元に手を添えて近づく。
ドクッ…ドクッ…ドクッ…ドクッ…ドクッ…
少しだけ唇が触れたか触れないかの刹那、私は思い切り肩を掴まれ押し倒された。
「誰だ…お前……。」
いつもより低く、唸るような声。
「あの………私………すいませんでした。」