お母さんは自分のことのように気合を入れてくれた。

入れすぎていた。

目の前の鏡に映っている人間。


私だけど私じゃないみたい。


何、この子かわいい。

「だって私の子ですもんー!」

ギューッとお母さんが抱きついてきた。

なんで私の心の声に反応する なんて思ったけど、お母さんだもん。

ちょっと不思議でも不思議じゃない!...はず。


「お母さん、折角の化粧なのに崩れちゃうからやめて」

「ふふっ ごめんなさいね♪」

「...今度こそ行ってきます」

「いってらっしゃーい」


今度こそ、家から出る。


と、思ったけど玄関でお母さんに呼び止められた。

「あ、唯ー」

「何?お母さん」

「陽くんに可愛いって言ってもらえるといいわね」

ウインク付きで。

私のこんな戯れ言のために足を止めたのか。


「そんなのわかんないよ...」


小さく呟いて 玄関から出た。

お母さんが何か言ってたけど玄関に遮られて何を言ってたのか分からなかった。