菊さんは私に向かって改めて挨拶をする。 「城内の女人をまとめております。菊と申します。…こんな老いぼれに、何か御用でしょうか?」 老いぼれ…と言うには早いほど、歳の割に美しい菊さん。 昔と変わりない。 「つかぬ事をお聞きしますが、この城の老中(ろうちゅう)である、蔓(かずら)殿は今何処に?」 私が蔓と言う名を口にした時点で、菊さんはバツの悪そうな顔をした。 そして答えた。 「…5年間に、持病で亡くなっておられます。」 …やっぱりそうだったか。