どうやら女の子はこの男どもにぶつかってしまったらしく、頭を下げて謝っている。だが先頭の男が女の子を許す気配はなく、声を荒げて怒っている。相当気が立っているらしい。女の子はすっかり怯えきっている状態だ。周りもその場を避け、ざわめいているだけで、助けようとする人の姿は見当たらない。まぁ、当然だろう。女の子にキレているのは、柔道部のエースなのだ。名前はよく知らないが、75キロ級で全国2位をとったらしい。朝会でよく表彰されていた。だが性格は悪く、すぐキレ、すぐ殴る。不良グループとつるんでいるという噂も聞く。いわゆる問題児というやつだ。そんな奴から女の子を救おうとする馬鹿なやつはいないだろう。私だって関係ないのだから見ている必用はない。席に戻るべきだ。だが、野球部特有の正義感が私の足を進ませた。

「その辺にしてあげたら?」

私は女の子をかばう形で、二人の間に割り込んだ。男は不機嫌そうに、私を睨み付ける。さすが全国2位。剣幕が半端ない。だが、カッコ悪いところを見せるわけにはいかないというプライドが、私の足を止める。そして冷や汗をかきながら言った。

「この子も謝ってるし、そろそろ許してあげてもいいんじゃない?」

すると男は声を荒げて、

「おまえ、なめんじゃねーぞ!!」

と、殴りかかってきた。私は何とかそれを避けたが、頬をかすったらしく、ヒリヒリして痛い。その時、私はやっと気付いた。これ、だいぶヤバイ状況だ、と。さっきのは何とか避けたけど、私は喧嘩慣れしていない。だが相手は不良とつるむやつだ。どう考えても私に勝ち目はない。
…関わらなければよかった。
そんな後悔が頭を過る。だがもうどうしょうもないのだ。相手はまた殴りかかってくる。私は避けきれないと思い、とっさに手を顔の前で交差させて、目をつぶった。殴られる!そう思い、強い衝撃に備えていると…

「お前ら、何してんだ!」

奇跡的に学年主任の先生が来た。これだけ騒ぎになっててこなかったのもおかしいと思うけど。先生の声を聞き、男は手を止めた。助かった。私は安堵のため息をつき、先生になにがあったか話す。私が手を出していないことを聞くと、先生は男どもを連れ、職員室に向かった。