私は電話を一方的に切り、ある場所へ向かうためにパジャマから出掛ける服に着替えた。



そのある場所とは、もちろん葵が働く"カップルしか入れない"海の家しかない。



窓の鍵を全て閉めて開いてるとこが無いか確かめ終わり、最後に玄関を出てドアの鍵を閉めた。



久しぶりの自分の自転車に少し違和感を感じながら、カバンから聞こえる着信音に耳を傾けた。



それは葵からと分かるもので、海に着くまでに何回もその着信音は鳴っていた。



あまりにも着信音が鳴るので、葵に何かあったのかと思い通話ボタンを渋々押した。



すると、電話越しに聞こえてきたのは不機嫌な葵の声と――…



女の、声。



《急に切んなよ、心配すんだろ》



心配すると言いながら不機嫌だけど優しい声を出す葵。


でも奥の方から聞こえるキャハハと笑う女の声は、葵の声より鮮明に私に聞こえてきた。



《聞いてんのかよ?》



聞いてるよ。

奥の方からする女の声を。



聞きたくないのに、葵の声を聞こうとするけど聞こえてくる下品に笑う女たちの声。



「……るの」


《あ?》


「今、海にいるの」



葵がバイトしてるあの海の家はカップルしか入れないはずなのに、聞こえてくるのは女の声だけ。


彼氏たちは?

カップルじゃなきゃ入れないんじゃないの?



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