葵の眉間にシワがさらに寄って、葵は金髪男の方に歩き出した。
あぁもうダメだ。
ケンカしちゃう。
今度は停学決定かもしれない。
殴り合いを見る趣味はないので、歩き出す葵から目を逸らして自転車の影に隠れようとした。
「……え?」
「あっ、」
思わず裏返った声が出てしまった。
それは金髪男も同じだったらしく、自分を通り過ぎる葵を驚いた目で金髪男は見ていた。
葵は金髪男に殴りかかるわけでも胸ぐらを掴むわけでもなく、ゆっくりと金髪男の横を通り過ぎた。
……え…殴んないの?
殴ってほしいわけじゃないし、逆に殴ってほしくないし、むしろ話し合いで終わってほしいって思ってたんだけど。
なんか葵なのにあっさりしてるから。
いつもなら殴りかかるのに。
葵はケンカ上等なのに。
これは……どういうこと?
「美鈴行くぞ」
殴りかかんなかったものの、不機嫌なオーラが漂ってる葵は振り返って私を呼んだ。
だから、できるだけ、しゃがみこむ不良たちと金髪男と目が合わないように、金髪男の横を通り過ぎた。
葵の横に並ぶと、葵は私の手を握って、そのまま繋いだ手をポケットに入れた。
よかった。
殴り合いになんなくてよかった。
何で殴り合いになんなかったのかは分かんないけど、たぶん葵が今日はそんな気分じゃなかったんだと思う。
うん。きっとそうだ。
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