「俺はお前しか見てねぇよ」




葵はそう言って私の後頭部に手を回して顔を近付けてきた。



私を真っ直ぐ見つめるその瞳からは視線を逸らせない。



こうやって顔を近付けられると、ショックを受けていてもドキドキしてしまって

ショックを受けていたことを忘れてしまう。




「過去の事なんか気にすんな。今の俺だけを見てろよ」

「うん」

「心配しなくていい。本気になったのはお前が初めてだ」

「うん」

「これからもずっと美鈴だけだから。俺が好きなのは美鈴だけだから」

「うん」

「セックスで気持ちいいって感じたのも美鈴が初めてなんだ」




バッコーン!!



リビングに鈍い音だけが響き渡った。



最っ低!!

せっかくいいムードだったのに!

何で……最後にあんなこと。



まあ、いつものことだけどさ。



乙女心というものをどこまでも知らない葵には天罰としてたんこぶが与えられた。



そんなに力いっぱい叩いたつもりはなかったんだけどね。




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