「そのとき………見たことない男たちが、あたしの前に来て……」
「それ以上はいい。分かったから」
菊哉は落ち着いたのか、もともと座ってた座席に深く座りポケットから煙草を取り出した。
『それ以上はいい』
菊哉はそう言って、私に次の言葉を話せなくした。
私の考えだけど、それは私にあの時のことを思い出して嫌な思いをさせたくないと思ってくれたからだと思う。
菊哉なりの優しさだと思う。
だから嬉しくて、
「ありがと」
心を込めてお礼を言った。
「……別に」
そしたら、恥ずかしそうに顔真っ赤にしながらそう言われた。
不器用な菊哉の優しさは、最初の頃はあまり分かんなくて、お礼を言えなかったときがたくさんあった。
けど今なら気づける。
その小さな分かりにくい優しさに気づける。
そんな自分にも、少し嬉しくなった。
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