遠くの方から菊哉の叫ぶ声が聞こえてきて恥ずかしくなった。
その迷惑な大声を出してるのが自分の友達だと思うと、まるで私まで迷惑かけてるみたいで恥ずかしくなった。
隣を歩いて私の手を握る葵も同じ事を思ってくれてたみたいで、
「今だけでいいから菊哉と他人になりてぇ」
と、楽しそうに笑いながら呟いていた。
この前までの不機嫌な顔の葵はもうどこにもいなくて、いつもの葵に戻っている。
でも私はまだ謝ってないし、私が言いたいこともまだ言ってない。
だから、葵にああ言われて嬉しくて安心出来たけど、自分の心の中はスッキリしていなかった。
借りてく、と言われて葵がいったい何処に向かってんのかも分からず歩いてる間。
私の表情は思いのほか明るくなかった。
「明日の学校祭何時から?」
「え?」
「学校祭って何時から始まんの?」
「…9時…からじゃない?」
突然の質問に驚きながらも答えた私の隣で、にこにこ笑いながら『なら間に合うな』と呟いた。
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