「ああ、それ?それは紅のやつ」
そう言って本日2本目の煙草を吸い始めた葵は、私を通り越して、鏡に視線を向けた。
ふーん。紅の鏡なんだぁ。
―……って、
「紅って、誰?」
「あれ言ってなかったっけ。俺と7個離れてる姉貴」
「あ、姉貴!?」
どこまでも葵の家族のことを知らなかった私は、どこまでも葵と話が噛み合わない。
お兄さんもいて、お姉さんもいんの!?私聞いてないんだけど!
いや、私から聞いてないんだけどね。
でも、少しくらい言ってくれてもよかったじゃんと、今になって虚しくなってきた。
「そういえば、俺の兄弟の話とかしてなかったっけ?」
「あー…うん」
「聞きたい?」
………え?
たぶん、いやきっと、葵は私に自分の家族のことを聞きたいのかどうか聞いてるんだろう。
私もそれは分かってるんだけど。
正直聞いていいのか分からない。
でも聞きたい気持ちは、遥かにどの気持ちよりも大きかった。
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