確信したとばかりに、私の表情は一気に明るくなった。



そのすぐ直後に、長い廊下を歩く足音がこっちに向かってきてるのが失神しかけの私にも分かった。



今度は誰だろうと思って振り返ろうとしたのと同時に、私の頭上から低い声がした。




「緑兄、美鈴いじめないでくんないかな」




私のすぐ後ろには息を切らしてる葵がいて、この怖い人を緑(りょく)兄と呼んだ。



兄と付けて呼んでるっていうことは、もしかしてこの怖い人は葵のお兄さんなのかもしれない。



緑兄という人は、吸ってた煙草を灰皿に擦って火を消した。




「いじめてねぇよ、なあ?美鈴ちゃん?つか、葵の彼女だったのかよこの子」


「今日来るって朝話しただろ?つーか、美鈴のこと名前で呼ぶな」


「じゃあ何て呼べばいいんだよ。美鈴様か?あ?」


「呼ばなくていいから」




葵は普段より低い声を出して私の手首を握りながら、お兄さんに対して火花を散らしていた。



お兄さんがいるなんて知らなかった私は、

今こうして葵のお兄さんだと言われると、この緑兄という人が葵に似てるようにも見えてきた。



特に、ピンク色の薄い唇が葵と緑兄は似てる。



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