「ん?」
私が返事すると、引き寄せるように背中に回ってた葵の左手が離れて、両手で私の両腕を掴んだ。
再び向かい合う形になった私と葵の目と目が合った。
さっきまで葵に触れられてた背中が熱くて熱を持ってるみたいで、
葵の次の言葉が出るまでの間、逸らせない視線と熱い背中の所為で頭の中が真っ白でいた。
すると耳元で、低い葵の落ち着いた声が聞こえた。
「今日って、何かあんの?」
「…これから?」
「ああ」
「ないけど、何で?」
葵は、ふっと笑った。
その軽い笑いから私は嫌な予感でして、次の言葉をあまり聞きたくなくなった。
この軽い笑いをした後に出てくる言葉は、いつもだいたい一緒の言葉だから予想がついた。
「今からけりつけてくる。だから先帰って、俺んちで待ってて」
ほらね。やっぱり。そうだと思ったよ。
そんなことだろうと思ったよ。
さっきまでキレる寸前のピリピリモードからラブラブモードに変わったと思ってたのに、
いきなり甘い声から、一つトーンの低い落ち着いた声に変わって軽く笑ったりするから。
もうドアの向こう側にいるギャル達のことなんか忘れてると思ってたのに――…。
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