けど、ありえない。
一枚壁の向こうでは、ギャル三人組がドアを壊す勢いで叩いてるっていうのに。
こっちの私たち二人は、周りにハートが見えるくらいにラブラブモードに入ってる。
いや、私はそうしてないけど。
決してラブラブモードになりたいと望んだわけじゃないけど。
「…ねぇ」
「ん?」
「ギュッてして」
でもたまには、意地を張んないで女の子らしく甘えてみたい。
葵は一瞬驚きから目を丸くしたけど、すぐにその体で私を包み込んだ。
葵の匂いが、すぐにした。
「何か気ぃ狂う」
「え?」
「お前にギュッてしてとか言われると、何か気ぃ狂う」
葵の左手が私の背中に回って、引き寄せるように力が入ったため、葵との距離が無くなった。
自然と私の頭は葵の肩にある状態で、葵の癖のある髪が鼻をくすぐるように当たって痒い。
でも今のこのムードを壊したくなくて、我慢することにした。
「美鈴ってさ、」
抱き締められたまま、耳元から低い葵の声がきこえる。
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