嘘とワンダーランド

「今夜は残業かもな」

京やんは笑いながら呟くと、資料作成に取り始めた。

「残業になりそうだったら、手伝ってあげようか?」

そんな彼に向かって、わたしは声をかけた。

「えっ?」

京やんは驚いたと言うように聞き返した。

「昨日のお礼」

わたしがそう答えると、京やんは納得をしたと言う顔をして作成に取りかかった。

…なんてね。

京やんの横顔に向かって心の中で呟いた後、わたしもそれまで手を止めていた仕事に取りかかった。

本当は課長と一緒の家に帰りたくないし、家の中にもいたくないから、手伝うなんて言っただけ。

課長と顔をあわせたくないから、残業を理由にしただけ。

もう少し言うならば、わたしは自分のために京やんを利用した。