嘘とワンダーランド

そう言ったわたしに、眼鏡越しの瞳が大きく見開かれた。

「わたしも、離婚したくないです。

このまま課長と別れたくないです…」

「会社の外では…」

「正文さん」

課長に言われる前に、わたしは彼の名前を呼んだ。

自分でも気づかないうちに、課長のことを好きになってしまっていた。

「若菜」

課長がわたしの名前を呼んだ。

わたしの名前を呼ぶその声が好き。

わたしを見つめる眼鏡越しの瞳が好き。

「正文さん」

わたしは課長の名前を呼んだ。

この気持ちに気づいたからなのだろうか?

彼の名前を呼ぶことに抵抗がなくなっていた。

課長の顔に向かって、わたしは手を伸ばした。

頬にさわると、課長はくすぐったそうに目を細めた。