嘘とワンダーランド

だらしなくゆるめられたネクタイに、シャツとズボンにはシワがついている。

いつもは整っている髪も寝癖がついてボサボサだ。

彼が痩せたように見えたのは、無精ひげが生えているせいだからだと気づいた。

「課長、ですよね…?」

そう聞いたわたしに、
「会社の外では名前だと、何度言ったらわかるんだ?」

課長が言い返した。

「正文さん…」

呟くように名前を呼んだわたしに、
「いい子だ」

課長は眼鏡越しで笑った。

それに対して、わたしは笑うことができなかった。

「電話しても繋がらないし、会社に行っても休んでる。

今は、どこにいるんだ?」

わたしが笑っていないことに気づいたと言うように、課長は笑うのをやめると質問してきた。