嘘とワンダーランド

「若菜」

課長がわたしの名前を呼んだのと同時に、彼の指先がわたしのあごをつかんだ。

クイッと上を向かされたと思ったら、眼鏡越しの瞳と目があった。

課長は、一体何がしたいと言うのだろう?

社内では結婚していることは秘密だと言ったくせに、こんなバカなマネをしている。

誰かに見られると困ると言ったら、見られても構わないと返してきた。

「――あなたの考えていることがわからないです…」

呟くように言ったわたしの言葉に、
「何だって?」

課長が不思議そうに聞き返した。

「秘密にしろとか、プライベートは干渉しないとか言ったくせに、何でこんなことをするんですか?

どうして見られても構わないとか、そんな訳がわからないことを言うんですか?」

それまであごをつかんでいた課長の指が離れた。