嘘とワンダーランド

「――やっ、待っ…」

顔をそらそうとしたわたしに、
「本当にするかと思ったか?」

寸でのところで、課長が止まった。

課長の顔が離れたのと同時に、抱きしめていた腕が解放された。

もしかしなくても、からかわれた?

どちらにしろ、質が悪いにも程がある。

「無理やりキスするほど、俺は鬼じゃないからな」

「――ッ…」

そう言った課長に、自分の頬が熱くなったのがわかった。

「気持ちがすれ違っているのにキスしても、ただ虚しいだけだ」

悲しそうにそう言うと、課長はその場から立ち去った。

言い返すことができなくて、課長の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

無理やりって…キスしようとしてきたのは、そっちじゃないのよ。